2012年12月5日水曜日

#ICRP #WG84 報告を読む「3.放射線被曝の数値化」



ICRP ref 4832-8604-9553
2012
1122
ICRP放射線防護システムに照らして
日本における原子力発電所事故に学ぶ
初期段階の教訓に関する第84作業部会の報告
3.放射線被曝の数値化
事故のあと、個々人の放射線被曝を放射線量で数値化するために数値や単位が用いられたが、これがかなりのコミュニケーション問題を引き起こした。この問題には次のようなものがある――
·           数値間の違いがじゅうぶんに説明されず、学識のある聴衆でさえじゅうぶん理解できなかった。
·           放射線防護システムに用いられる数値と放射線計測に用いられる実践的な数値の区別は、部分的には意味論的な問題のために、さらにもっと困難である。
·           ある器官の線量に該当する数値と実効線量の数値とで、常にどちらの数値が用いられているか特定せずに同じ単位を用いることで、さらに混乱を深めた。
·           (放射線荷重係数から区別するための有効荷重といった)高線量域における放射線加重線量を欠いているとしても、幸いなことに、この事故では問題にならないが、それでも未解決の問題として残る。
·           放射線防護では、線量測定数値が数多くあるだけでなく、(放射能と放射能蓄積といったような)放射線測定数値も数多くあり、このように数多く異なった数値があるのはなぜかについて、非常に貧弱にしか理解されていない。
専門外の人びとや一般国民に対して、ICRPシステムとその数値を用いて放射線学的な情報を伝えるのは非常に困難である。このことは、(器官[等価]線量や全身[実効]線量といった)一つ以上の数値を用い、身体被曝データを器官および体組織に対する放射線リスクに関する科学データと組み合わせる数値システムの背後にあるかなり複雑な概念の当然の結果である。
言い換えれば、システムおよび数値は実践的な放射線防護のためにはじゅうぶん適していることが明白だが、とりわけ緊急事態状況において専門外の人びととの情報伝達のためには適していない。
(器官または組織に対する)数値等価線量と実効線量とが共通の単位シーベルトを用いているという事実が引き金になって、はなはだしい混乱が生じている。この問題は、事故による甲状腺線量の報告にとりわけ関連しているようであり、放射性ヨウ素の取り込みが、ほとんど甲状腺のみの放射線被曝に結びつくという事実に関連している。通常の場合、等価線量が器官線量を報告するための関連数値であるが、線量が単位のみについて報告される場合、たやすく実効線量と混同されることになる。シーベルトを単位とした数値を告げる場合、線量値を特定しないことによる混乱が生じるので、状況を改善する可能性を慎重に分析することには価値がある。
困難があるとわかったにもかかわらず、ICRP放射線防護システムの数値と単位には、実践的な放射線防護における功を奏する適用の記録を重ねてきたことは強調されるべきである。それらは、情報伝達のためには、そしておそらく緊急事態および緊急事態後の状況における意思決定のためにはじゅうぶん適していないかもしれない。(たとえば器官線量や実効線量といった)簡易化した線量報告を正確で帰結的に適用していたならば、緊急事態においては状況改善に役立ったかもしれない。ICRP防護数値は、(個人または集団の)リスク評価のためではなく、低線量域における放射線防護を立案し、個人線量規制の適合性を検定するために導入されたことは忘れられてはならないし、強調されなければならない。
【勧告】
防護数値と単位に関する混乱はいかなるものも解消されること。
【用語検索】
実効線量
実効線量とは、全身が均等に照射されても不均等に照射されても、また放射線線質が変わっても、確率的影響が起きる確率を表現するようにつくられた線量概念である。実効線量は、臓器・組織の吸収線量を基にして、線質が異なった放射線の吸収線量には、放射線荷重係数を乗じて線量とし、更にその等価線量に全身に対する臓器・組織ごとの相対的な放射線感受性を表す組織荷重係数を重みづけして得た数量を、関連するすべての臓器・組織について合計したものである。この線量概念は、わが国の法令にも取り入れられている。
等価線量
等価線量(とうかせんりょう、英語: equivalent dose)は、線量当量の一つ。電離放射線被曝した人体組織吸収線量Gy)に放射線荷重係数を乗じたものであり、各組織・臓器の局所被曝線量を表すために用いられる単位系である。単位 Svシーベルト)。
等価線量は、修正係数として放射線荷重係数を使用することで算出される線量当量であり、各臓器への個々の生物学的影響をはかるために用いられる[1]。異なった種類やエネルギーを持った放射線から人体が受ける影響を同じ尺度で表すために導入された概念である。
線量に関する単位
放射線の強さ(量)には、(1)放射線自体の強さを表すもの、及び(2)放射線を照射された物体が受ける作用の大きさを表すものがある。(1)の放射線自体の強さや量よりも(2)の放射線を浴びた物体等(人の場合は被ばくと云う)が受ける作用の大きさが問題とされる場合が多い。確率的影響が問題となる低レベル被ばくにおいては、ガン(白血病を含む)および遺伝的影響に着目した(3)障害の大きさを表す線量が用いられる。従来なじみのあったレントゲン、ラド、レムなどの単位は、SI単位系導入後のしばらくの間は暫定的に併用が許されていたが、ICRP1990年勧告の法令への取り入れ、度量衡法の改正により、2001331日をもって廃止され、それぞれクーロン/kgグレイGy)、シーベルトSv)に変更された。また線量当量が線量と変更されるなど、多くの用語の名称も変更された。
【訳者によるコメント】
WG84報告は第3項において、ICRP放射線防護システムで用いる単位系が複雑であると指摘し、「専門外の人びとや一般国民に対して、ICRPシステムとその数値を用いて放射線学的な情報を伝えるのは非常に困難である」と語ります。その一方、ICRPシステムは「実践的な放射線防護における功を奏する適用の記録を重ねてきた」と強調しています。
専門外の人びとや一般国民に対する情報伝達の困難さを嘆いてみせているようですが、おそらくICRPは、みずから用いている単位系の複雑さと「背後にあるかなり複雑な概念」を誇っているのでしょう。
勧告に「防護数値と単位に関する混乱はいかなるものも解消されること」とありますが、なんらの具体的な解消策も指摘していません。また、報告本文に「ICRP防護数値は…低線量域における放射線防護を立案し、個人線量規制の適合性を検定するために導入された」とありますが、ICRP311事故後いち早く「緊急事態被曝参考レベル:20100ミリシーベルト/年、現存被曝参考レベル:1~20ミリシーベルト/年」を勧告し、いまだに原発被災地の子どもたちに対する20ミリシーベルト年間被曝基準の押し付けを正当化していることを考えると、訳者はこの文言に怒りを禁じえません。

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