2013年9月26日木曜日

【海外論調】CMAJ:大震災のもたらした公衆衛生惨事

この記事は、オリジナルが公開されたのが昨年1月であり、とても古いものですが、いま読んでもまったく古くは感じませんので、日本語訳することにしました。言い換えれば、悲しいことに、日本政府や福島県など、悲しいことに、公的機関の対応がまったく改善していないことになります。
オリジナル掲載サイト“CMAJ”について、ウィキペディアの解説の一部を冒頭に転載しておきます。
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ウィキペディアからの引用
1911年に出版された創刊号の表紙
カナディアン・メディカル・アソシエーション・ジャーナル(英語:Canadian Medical Association Journal、略称:CMAJ)は、カナダ内科学会 (CMA)によって2週間に1回発行される一般医学雑誌である。同誌は、カナダおよび世界の人々の健康を増進するような刷新的な調査や発案を掲載している。CMAJは臨床調査の原著論文、分析、論評記事、ニュース、新規開業案内および思考を刺激するような編集記事を掲載する。
CMAJは、優れた一般医学雑誌のうちのひとつであると見做されている[1]。他の雑誌には、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・メディカル・アソシエーションランットBMJアナルズ・オブ・インターナル・メディシンなどが含まれる。CMAJインパクトファクター7.464であり、同誌のウェブサイトは年間2500万以上閲覧される。
CMAJは、創刊された1911年からの版をすべて電子版にして無料公開しているが、これは六大一般医学雑誌のうちでCMAJのみが実行していることである。過去のアーカイブ版もオンラインで無料閲覧できる。他誌では限られた項目や限られた年度のものまでしか無料公開されていない。
カナダ内科学会ジャーナル
 

CMAJ February 7, 2012 vol. 184 no. 2 
201119日初出 First published January 9, 2012, doi: 10.1503/cmaj.109-4083
© 2013 Canadian Medical Association or its licensors
すべてのCMAJ記事は筆者の見解を表明するものであり、カナダ内科学会の見解を必ずしも代表するものではありません。All editorial matter in CMAJ represents the opinions of the authors and not necessarily those of the Canadian Medical Association.
News
大震災のもたらした公衆衛生惨事
Public health fallout from Japanese quake
ローレン・ヴォーゲル Lauren Vogel
バーバラ・シバルド Barbara Sibbald
昨年の福島第一原子力発電所の原子炉メルトダウンから9か月、「隠蔽カルチャー」と不適当な浄化活動とが相まって、日本国民を「理不尽な」健康リスクにさらしたままにしていると医療専門家らはいう。
日本政府が、すでに同原発が実質的に安定していると宣言したけれども、専門家らのなかには、もっと広範な地域の人びとが放射性フォールアウトで汚染されているといい、彼らを避難させるべきだと要求する向きがある。
そうした専門家らは、日本政府に一般人の被曝限度を国際的に認定された基準に戻すように要求し、政府当局者らを「透明でタイムリー、包括的な情報交換の極度な欠如」のゆえに口を極めて批判している。
だが、国際原子力機関によれば、福島第1原発の原子炉3基の溶融した炉心の内部の温度は「冷温停止状態」に到達し、放射性物質の放出は「制御下」にあるCold Shutdown Conditions Declared at Fukushima。それはつまり、政府がまもなく、10万人以上にのぼる原発周辺地域からの避難者たちの一部に帰宅を許すかもしれないことを意味する。その人たちは、原発が2011311日のマグニチュード8.9地震と津波で打撃をうけたあと、地域から避難させられていた。
さらに爆発し、大量の放射能が大気中に放出されるような事態の可能性は、たしかに減少してはいるが、20118月、福島県を訪問した戦争防止医師会議(オーストラリア)の議長、ティルマン・ラフ氏は、原発がいまだにひどく損壊したままであり、放射能が漏れているという。「現場には汚染という重要問題があります。余震が続いてきましたし、これから何か月も続くと予想されており、なかにはほんとうに大きな余震もあって、すでに不安定で弱くなっている構築物にさらなるダメージをもたらす恐れがあります。原発の底に12万トンの高レベル放射能汚染水が存在し、それが海中にそうとう大量に漏れつづけています」





津波で損壊した福島第1原発に近い葛尾村で小学校の周辺を除染する作業員たち画像提供:Reuters/共同]
「社会的責任を果たすための医師団」理事、アイラ・ヘルファンドは、日本全域にわたる汚染状況の全貌はさらに不透明だという。「(事故直後に)人びとがどれほどの放射線量に被曝したのか、あるいはどれほどの線量に被曝しつづけているのか、わたしたちはいまだにわかっていません。政府が国民に向かってすべて大丈夫だと断言し、一般市民が独自に放射線量を測定し、政府がいう測定結果よりも高い数値を得るものですから、現時点でわたしたちが得ている情報の大半は、相矛盾するものばかりです」
やはり「社会的責任を果たすための医師団」理事であるロバート・グールド氏は、東京の当局者らが、原発から200キロメートル以上も離れて、半径20キロメートル立ち入り禁止区域のレベルに等しい高線量のセシウム――半減期30年、白血病、その他の癌を引き起こす放射性物質――を記録しているという。
国際機関は、原発周辺の立ち入り禁止区域を半径80キロメートルに拡大するよう、日本に迫ってきたが、政府はそれに応じず、一般人の年間放射線被曝許容レベルを国際標準の1ミリシーベルトより相当高い20ミリシーベルトに引き上げることによって「問題がないものと規定する」方を選んだと、グールド氏は付け加えた。
ラフ氏は、この最大許容放射線量の「恣意的な引き上げ」は政府による「人倫にもとる」失政であると糾弾する。「30人学級の子どもたちを5年間20ミリシーベルトに放射線に被曝させれば、30人に一人ぐらいまで発癌リスクが上昇することになり、これはまったく受け入れがたいものです。これまでの数十年間、これほど高レベルの放射線関連リスクが住民におよんでも、よしとする他国の政府を見たこともありません」
ウクライナのチェルノブイリ原子力発電所における1986年の核惨事のあと、「明確な目標が設定され、年間5ミリシーベルト以上の被曝をする恐れのあるすべての人を避難させましたので、疑問の余地はありません」とラフ氏は説明する。放射線レベルが1ないし5ミリシーベルトである地域では、地産食品の消費が禁止されるなど、放射性物質を摂取するリスクを緩和する方策が採用され、住民たちに移住選択権を供与した。1ミリシーベル未満の被曝であっても、やはり監視対象とされている。
日本政府はそれどころか、国民向けに福島県産品の購買奨励キャンペーンを張ったとラフ氏は付言した。「25年前の(チェルノブイリにおける)あの対応は、ずっと技術的に洗練されておらず、ずっと閉鎖的で非民主的な状況であるのに、公衆衛生の観点から見て、現在の近代的な日本でなされていることよりも、はるかに責任のあるものでした」
201111月、ワシントンDCで開催されたアメリカ公衆衛生協会の第139回年次総会およびエクスポジションにおいて、日本公衆衛生協会を代表して多田羅浩三博士が提示した汚染見積もりによれば、日本が同じような規制を実施するなら、約1,800平方キロメートルの土地を避難区域とし、それとは別の11,100平方キロメートルの土地で生産される食品に規制をかけなければならなくなる。
「(政府設定の被曝)レベルは大丈夫であると人びとを説得するのは、非常に困難です」と、多田羅博士は会場の代表たちに語った。博士はインタビューの要請を断った。
日本政府はもっと高い線量が「危険でない」と言い張っていると、ヘルファンド氏は説明する。「しかし、事故からずっと、日本政府が口からでまかせをいっていて、国民の懸念を最小限に抑えるためには、情報にもとづく決断のために必要な公的情報を否定することを意味する場合でさえ、できることはなんでもやってきたことが明確になりました」
「彼らには、原発でメルトダウンが起こってから1日かそこら以内にそれがわかっていたのですが、なのにその情報も何週間も開示せず、外部から大声で迫られて、ようやく開示したのだということが、いまでは明らかになっています」とヘルファンド氏はつづける。「それに総理大臣は、一般人に健康被害がおよばないと国民に保証するのと同時に、東京が避難地域とされなければならないと考えたが、それを実行するためのことはなにもしなかったと、いまになって認めるのです」
記録管理に不手際があり、政府は国民に間違った情報を提供したと、ラフ氏も同様に指弾する。一例として、「事実として、安定ヨウ素がだれにも投与されなかった」とき、安定ヨウ素が子どもたちに配られ、効果をあげたという報告を、氏は引用する。


危機に対する政府の反応が「恐ろしく不適切」であり、当局者たちの放射能ホットスポットに関する公式報告に対する反応も遅いので、国民の不信は、地域住民が自分たちで浄化とモニタリングの作業を実施するレベルに達していると、グールド氏はいう。「そのため、一部の地域の浄化がはじまりましたが、人びとが町のまわりの森林や土地に汚染された土をてんで勝手にばらまいているという報告もあります」
「ある場所では、ブルーシートの下に集積されたばかりの汚染土壌の山を見ることができます」と、グールド氏は付け加える。
政府による支援があるとしても、達成しうる除染には限界があると、ヘルファンド氏は説く。「人手をどうしますか? 表面の土をすべて剥ぎ取るのですか? どこまでやるのですか? それに建物を洗浄するなら、廃水をどうしますか?」
また、政府は、立ち入り禁止区域の外だが、高レベル放射能で汚染された地域から自主避難する場合の補償条件を検討しなければならないと、ラフ氏は主張する。そのような補償がなければ、家族の多くには住みつづける以外に選択肢がないと氏はいう。「現時点で、長期的に健康障害を最小にするための、唯一、最も重要な公衆衛生政策は、避難区域をもっと広く拡大することです」
日本政府はこうした声に応えなかった。

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