2013年10月17日木曜日

【#海外論調】#P2P 科学:オンライン宣言「フクシマ危機に対処するための世紀の課題」

Foreign Policy In Focus

対等な立場に依拠する科学:
フクシマ危機に対処するための世紀の課題
フクシマ核危機を解決するためには、科学、ソーシャル・メディア、公益外交のありかた全体の再考が求められるだろう。
――レイン・ハートセル、エマニュエル・ペーストラック 201393
By Layne Hartsell and Emanuel Pastreich
(Sterneck / Flickr)

地震と津波が日本の発電所に大混乱をもたらしてから2年以上も経過して、フクシマ核惨事は、アジア・太平洋で最も深刻な公衆衛生上の脅威*、世界史上最悪の核汚染事例となっている。損傷したフクシマ第1の敷地から放射能が地下水に漏れつづけ、これが太平洋全体を汚染する脅威となっている。浄化のために、前例のない世界的な努力が必要になるだろう。
当初、漏れだした放射性物質は、セシウム137134、それに割合が低いがヨウ素131で構成されていた。もちろん、真の長期的脅威をおよぼすのはセシウム137*であり、これは身体組織にたやすく吸収され、しかも半減期が30年なので、数十年先まで脅威となる。最近の測定結果によれば、流出している水に含まれる放射性物質のひとつ、セシウムよりはるかに危険なストロンチウム90のレベルが上昇していることがうかがえる。ストロンチウム90はカルシウムに似ているので、人間や動物の骨にたやすく吸収される。
東京電力*は最近、同社には地下水や海水に向かう放射性物質の流れを制御するための専門技能が不足しており、日本政府*に支援を求めると発表した。東電は、原発の周りの地盤を凍結させることによって、地下障壁を構築し、それによって放射能汚染水が最終的に海洋へと漏出するのを防ぐこと――大規模な放射能漏出事例としては前代未聞の試みとなる手法――を提案した。東電はまた、1日あたり約400トンの規模で原発に流入する水を既存の壁が防ぎきれないので、追加的な壁を建設することを提案した。
だが、これらの提案が功を奏するとしても、長期的な解決策にはならない。

新たな宇宙開発競争
フクシマ第1危機の解消は、1960年代における人間の月面着陸に比類する課題であると考える必要がある。この複雑な技術的大事業を達成するには、数十年間にわたる世界の注目と途方もない資源の集中を必要とするだろう。だが今度ばかりは、潜在的に何億もの人びとの健康が危険にさらされる状況である以上、この努力は国際的なものでなければならない。この危機に対する長期的解決策は、少なくとも核拡散、テロ、経済、犯罪に対する関心に匹敵するだけの、政府と産業界の注目に値する。
フクシマ第1問題を解決するためには、最善最良の人びとを動員して、次の世紀にまで引き継がれて実施される長期計画の策定に協力してもらわなければならない。世界中の有識者たちは、持てる見識と着想を寄せて貢献する必要がある。そうした専門家は――工学、生物学、人口統計学、農業、哲学、歴史、芸術、都市設計、などなど――多様な分野から輩出しなければならない。彼らは多重のレベルで協力して、地域社会を再建し、人びとの再定住を実現し、放射能漏れを制御し、汚染水・土壌を安全に廃棄し、放射能を封じこめるための包括的なアセスメントを開発しなければならないだろう。彼らはまた、課題解決のためには、現時点から数十年先まで待たなければ利用できない技術を要するとしても、損壊原子炉を完全に解体する方法を見つける必要がある。
このような計画には、高レベル放射線環境で機能しうるロボットなど、前例のない技術の開発が必要になるだろう。このプロジェクトは、ロボット工学界の革新者らの想像力を捉え、既存の軍事技術に一般人の発想による適用法を加えることになるかもしれない。ロボット技術を改良すれば、高齢者ら*やその他の人びとがみずからの健康を危険にさらして、自発的に原子炉に入るような悲劇的な光景を避けられるだろう。
フクシマ核惨事は全人類の危機であるが、これは前例のない協調に資する世界規模のネットワークを構築する機会となりうる危機である。先進的なコンピュータ技術に支援されたグループやチームは、進行中の流出がもたらす巨大な諸問題を対処可能な部分に分割しはじめることができる。そこで専門家たちが、最良の勧告と具体的な行動計画を携えて現場に復帰できる。この努力は、気候変動に関する政府間パネル*の前例にならわせることもできるが、その限界をはるかに超えていかなければならない。
マイケル・ニールセンは、著書『発見を改革する~ネットワーク化された科学の新時代*(仮題)において、前例のない規模で適用しうるネットワーク化された科学の原則を描写している。この試みによるブレークスルーは、メキシコ湾のBP「ディープウォーター・ホライゾン」原油流出事故*2や世界規模の気候変動対応*3など、他の長期プログラムにも使うことができる。フクシマに関する共同研究は、ヒト・ゲノムの読み取りや大型加速器のメンテナンスよりも大きな、非常に大きな規模で実現すべきである。
最後に、この危機対応には、公益外交の分野を全面的に改革する機会がある。公益外交は、諸国政府がそれぞれの外交メッセージを練りなおして、国際問題に関する議論と行動のための真剣なフォーラムに望む、どこかあいまいな努力から抜け出すことができる。公益外交がフクシマの経験を通して成熟すると、わたしたちは世界中の数十万の人びとを糾合して、共通の脅威に対処するような新しい戦略を工夫できる。ネットワーク化した科学を手掛かりとして、公益外交は、貧困、再生可能エネルギー、公害防止など、危急の課題に対して、真剣で長期的な国際協調を促進するプラットフォームとして役立つことができるだろう。
同じように、この危機を、ソーシャル・ネットワーキングが本来想定されていた役割、共通の問題を解決するために人びとの専門技能を結合することを実現するための刺激として役立てることができる。ソーシャル・メディアは、太り過ぎの猫の写真を交換する手段としてではなく、情報の正確さを評価し、専門職どうしの意見を交換し、全体的な合意を形成し、市民社会が政治に直接参画することができるようにするための手段として使うことができる。ソーシャル・メディアに――ピアツーピア・ファンデーション(P2P)が推奨しているような――適正な相互検証プラットフォームを導入することによって、ソーシャル・メディアは、フクシマ危機に向き合い、対処するための中心的役割を担うことができる。P2P運動のリーダー、ミシェル・バウエンスがEメールで示唆するように、「すでに、コンピュータ、車、重機のレベルの製造においてさえ、対等の人たちが世界中の知識を利用するために集結しています」。
ここに、わたしたちはフクシマの難題に対する答えを見つけるかもしれない。すなわち、問題を世界に公開することである。

ピアツーピア科学
日本政府と国際機関の側による虚偽や中途半端な事実、それに一枚岩になっていそしむ責任回避の2年半のあと、フクシマを、専門家たちと数百万、あるいは数千万の一般市民の両者が真摯に参画する世界規模のプロジェクトになせば、なんらかの希望を世界にもたらせることができるだろう。あらゆる国ぐにの憂慮する市民たちがオンラインでデータを精査し、提案を寄せるなら、方針決定プロセスにおける新しいレベルの透明性が実現し、計り知れないほど価値ある洞察があふれることだろう。
放射性物質放出と原子炉の状態に関して、訓練された核エンジニアの好奇心を満足させるに足りるだけの詳細にわたった情報が公的に入手可能でない理由はない。問題解決の試みに参画している数百万の憂慮する市民たちのコンセンサスに、次になにをするのかという問いが到来するならば、わたしたちは、これまで支配的だった秘密に替わる強力な選択肢がある。フクシマを解決するためのわたしたちの協力は、国境、企業所有制、知的財産利害関係が作り上げている、わたしたちの集合知を阻む既存の障壁を超えてゆくための規範となりうるだろうか?
大学全体のスターたちを類別するプロジェクトが立証してみせたことだが、注意深く作業を分割すれば、並みの人たちが技術問題を解決するために決定的な役割を果たすことができる。ギャラクシー・ズー*(銀河動物園)の例では、興味があるなら、だれでもオンラインで参加して、遠く離れた銀河に存在するさまざまな種類の星を類別して、データベースに情報を入力する資格がある。その行いはすべて、わたしたちの宇宙に対する知識を拡大する大規模な努力の一環であり、これは多大な功を奏し、科学分析には博士号を必要としない側面があることを実証している。フクシマの場合、一般の人が毎日オンラインで衛星写真を調査していれば、彼または彼女は、放射性物質を運ぶ異常な流れを識別することにかけては、教授よりも熟練者になれる。フクシマに関連して、分析を要する大量の情報があり、現時点では、その大部分が文字通りに未分析のままである。
フクシマに効果的な対処をするには、全般的な視野と特化した視野の両者に対応する必要がある。当初の段階では、優先順位の慎重で先進的な設定を要するだろう。次の段階で、同類者結束グループを設立することになり、それが先進的なコンピュータ技術による支援と学際的な統合をめざす努力によって、危機と課題に非常に効率的に対処することができるようになるだろう。同類者結束グループはまた、専門家と一般人のあいだを橋渡しする役割を担い、科学と社会に関して、批判的で継続的な教育を奨励することができるだろう。
フクシマに対処するということは、高給の専門家を結集することでもあるので、一般人に科学教育を提供することにもなる。その教育を実践できなければ、ノーベル賞級の解決策を手に登場しても無意味である。だが、人びとの全体が問題の理解を深めることによってのみ、教育実践は果たされたことになる。大規模にネットワーク化された科学を追求する努力は、包括的な営みであり、社会のいかなる集団も排除しないことを確実にするだろう。
人類が直面する前例のない危機に、常連のプレイヤー(NGO、諸国の中央政府、企業、金融機関)が対応できないなら、わたしたちは、革新的なコンセプトを提案する手段としてだけでなく、結果を出す解決策を推進し、実践するためにも、ソーシャル・ネットワークを構築する道を探求しなければならない。そのプロセスは、公共機関が行動するように圧力をかけることも含んでいる。わたしたちには、市民社会の必要に合わせて、科学とテクノロジーを効果的に適用するための道を拓く、真の改革を活用する必要がある。出発するために、インターネットのほかに最善の場はなく、フクシマ惨事に対する長期的な行動のほかに最善の課題はない。

【筆者】エマニュエル・ペーストラックは、ソウル、アジア研究所の所長。レイン・ハートセルは同所の研究フェロー。

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