2013年11月13日水曜日

ニューヨーカー誌「ハリケーン・サンディ、フクシマ、核産業」


2012112
ハリケーン・サンディ、フクシマ、核産業
エヴァン・オスノス EVAN OSNOS


ハリケーン・サンディが東海岸を襲い、ニューヨーク市から約40キロ北方、ハドソン川沿いに立地するインディアン・ポイント3原発を含め、原子炉3基を停止に追いこんだ。他にも3基が予防措置として出力を下げた。アトランティック市から約53キロ北方に位置し、全米で最も老朽化したオイスター・クリーク原発では、操作員らが異常な事態に直面した。風、上げ潮、高潮のため、原発の吸水系に通常以上に海水が押し寄せたのである。同原発はすでに定期点検のために停止していたが、高潮と同時に、送電線からの電源を喪失した。操作員らが「警戒態勢」を求めたため、同原発は最低警戒レベルから上位の態勢に移り、原子炉の冷却を維持するために予備発電機が起動された。
危険な目にあった者はなく、全体として、アメリカの原子炉104基は、電力網の他の部分よりも問題がはるかに少ないままに荒天に対処した。核産業界関係者よりも素早く核産業を褒め称えた者もいなかった。「核エネルギー施設は、各地で歴史的に伝えられる記録を超えた極端な氾濫水やハリケーンの強烈な風に耐えるように建設されておりますが、またもやハリケーン・サンディは、それらが頑丈にできていることを実証したのであります」と、業界ロビー集団、核エネルギー研究所の所長、マーヴィン・ファーテルはいった。
有頂天ぶりは全員一致でなかった。非営利団体、フェアウィンズ・エネルギー教育グループの主任エンジニア、アーニー・ガンダーセンは業界に批判的で、オイスター・クリーク原発が稼働中であったなら、氾濫水がほんの15センチも高ければ、ポンプが故障し、惨事を引き起こすとブルームバーグ(通信社)に語った。同原発の運営会社、エクセロンの広報担当は、この説を「真っ赤な嘘」という。記者は「どちらが正しいのですか?」と、憂慮する科学者同盟で核安全プロジェクトを率いる元原発エンジニア、デイヴィッド・ロックバームにたずねた。「アーニーを『真っ赤な嘘つき』というエクセロンの広報担当に同意できません。それこそ、まさしくフクシマを可能にした類の、閉じられたこころ、あるいは狭いこころです」と彼はいった。
フクシマとは、もちろん、日本で20113月に起こった三重メルトダウンの現場であり、これは、日本の核関係者たちの想定をことごとく超えていた地震と津波によって引き起こされたものである。これはチェルノブイリ惨事以降で世界最大の核惨事となった。フクシマの最も明瞭な教訓のひとつは、未来の予測不能性が過去の安逸を掻き乱すということだった。スタンフォード大学アジア太平洋研究センターの3人の研究者たちによれば、核産業が「歴史的に伝えられた記録」に残る状態に耐えられるというとき、もっと多くを知るようにしようと思わなければならない。フィリップ・リプシー、ケンジ・クシダ、トレヴァー・インサータは、水際に立地する原発について、その防護体制を、地震、地滑り、ハリケーンに関する歴史データに照合することによって、脆弱(ぜいじゃく)性を評価した彼らは今週、ワシントン・ポスト紙上においてハリケーン・サンディの影響を評価し、彼らのデータによれば、「複数の米国の原子力発電所は高波に備えていないことがうかがえる」とした。
われわれのデータベースによれば、防護が不適切な原子力発電所の数において、アメリカは二番手であり、日本に後れを取っている。1938年にニュー・イングランドを襲ったハリケーンは7.5ないし9メートル高さの高潮を引き起こし、これは今週のハリケーン・サンディがもたらした高潮よりそうとう高かった。東海岸の原発の多くは、平均約6メートルの海抜地点に立地しており、最低限の堤防しか備えていない。
彼らは、無防備な原発をニュージャージー・デラウェア州境で、コネチカット州で、ニューハンプシャー州で見つけた――そのどれもが、大都市から80キロ以内の場所にあった(フクシマ核惨事のさい、米国は自国民に原発から少なくとも80キロは離れているように勧告していた)。問題のひとつは、アメリカがあまりにも若い国であるという単純なことにあり、そのため、自然界の過去をあまり知ることができない。日本の地震学者らは、往時の歴史家たちが、あまりにも大規模で「船に乗りこんだり山に登ったりする」時間がないほどと書き記した896年の波の記録にもとづき、福島第1原発が津波に極めて無防備であると警告していた。原発側は警告を無視し、すべて過去に終わったことという。アメリカについて、スタンフォードの研究チームは、アメリカの記録はたかだか350年をさかのぼる分しかなく、「アメリカでは、千年に一度のできごととはどのようなものか、知ることさえない」ので、「この国の原発に対するリスクはたいがい過小評価されている」と書いた。災害にまつわる奇妙なことのひとつは、われわれの記憶が短いことである。ニューヨークの無防備ぶりが拡大していると長年にわたって警告されていた果てに、2007年の洪水がニューヨークの地下鉄に大打撃をおよぼすと、運輸当局は洪水防護対策に3400万ドルを支出した。だが、それでおしまい。今週、ニューヨーク・タイムズは「総点検整備のための追加的な州予算はつかない」と書き、元運輸当局者がその記事で「わたしたちはまったくラッキーでした。常に直面してきたリスクに対して守りを固める必要があります。ことが起こるまで、人は金を出したくないものですよ」と語る。
マイケル・ブルームバーグがオバマ大統領の再選を支持したとき、部分的には気候変動に対する戦いへのオバマの献身にもとづいていたのであり、ブルームバーグはこれによって、歴史は一部の人たちが思うよりも早く進むという認識に名を残したことになる。ニューヨーク沿岸の水位は、前世紀中、10年間にざっと2.5センチの割合で上昇していたのであり、これから先、10年間に15センチもの速さで上昇する段階に向かっている。フクシマのメルトダウンによる規制面の波及的影響は、いまでも非常にたっぷりと感じ取られる。原子力規制委員会は今年3月、洪水防護対策の再評価、無期限の全電源喪失に耐えるための緊急対策機器の維持管理など、新たな規則を原発に導入した。
論者のなかには、これでは足りないと考える向きもある(スタンフォード・チームは、もっと多く、もっと高い防波堤、その他の対策を求めている)。ロックバームにとって肝要なのは、いま原発電力網が砂上の楼閣を装うときでなく――断じてそうでなく、ハリケーン・サンディが実証したように――正常事態が災害事態に転じるのを防ぐべきときであるということだ。「一部の原発で、既存の防護レベルでは不十分であることがわかっています」と彼はいった。「だが、安全面の借りはだれも守りません。わたしたちはこの努力を続け、目標――あらゆる欠陥が特定され、是正されること――を達成する必要があります。そこで、原子力規制委員会と核産業は、自然の苛酷なふるまいから国民を守るために、あらゆる合理的な対策を講じましたと誠実さをもって国民に告げることができます。それまで、運が大きな役割――全面的でなくとも、必要以上に大きな役割――を担ってゆきます」
Read Osnos’s dispatches from Japan during the Fukushima disaster in 2011.
写真:Stan Honda/AFP/Getty.
エヴァン・オスノス EVAN OSNOS
2008年からニューヨーカーの専従記者。2005年から中国に在住し、雑誌通信員を務める。彼の記事は、中国の若いネオコン、大物の栄枯盛衰、アフリカ人移民の流入、中国最強のボクサーに焦点を当ててきた。
前歴としては、シカゴ・トリビューンの北京支局長を務め、2008年ピュリッツァー調査報道部門賞を獲得したシリーズに貢献。アジア協会のアジアに関する優れた報道に対するオズボーン・エリオット賞(2007年)と若手ジャーナリストに対するリビングストーン賞(2006年)、海外記者クラブ賞(2007年)、職業ジャーナリスト協会賞(2006年)を授与される。公共TVシリーズ「フロントライン/ワールド」の通信員も兼務。中国に赴任する前、彼は中東で勤務し、ほとんどイラク報道に従事していた。
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