2015年3月18日水曜日

VICE:原発20キロ圏にひとり生きる男 Alone in the Zone @Fairewinds

FAIRWINDS Energy Education
原発20キロ圏内にひとり生きる男
2015224
【解説】キャロライン・フィリップス Caroline Phillip
フェアーウィンズ・エネルギー教育理事

「寂しいなんての、通りこしてたな」――動物や自宅を見捨てられず、かつては賑やかだった町にひとり生きる農民、松村直登はいう。黙示録的な破局後の人びとが退去したゴースト・タウン、福島第一原発原子炉25マイル圏内の富岡町と飯舘村をVICEインターナショナル制作20分ビデオ『原発20キロ圏内に生きる男 - Alone in the Zone』が特集。

米国人として、このビデオを閲覧すると、ハリケーン・カトリーナの大惨事、そして避難を強いられたニューオーリンズ内外の非常に多くの人々のことが頭をよぎる。フクシマの核メルトダウンが引き起こした破壊はハリケーンのそれと同じほど骨身にこたえるものだが、両者の大きな違いは、誰にも見ることのできないものの有無である。福島第一原発の放出した毒性の高い放射能は永続的に残存し、かつては美しかった農業地帯を数百年は汚染しつづけるだろう。核の三重メルトダウン勃発から4年後のいま、原子炉の暗部にあるものを、なにもかも廃棄する作業は遅々として進まず、収束の日は視野に見えてこない。
直登さんは富岡町の農民であり、彼の畜産農場に戻ってみると、メルトダウンからこのかた、ダチョウたちが自由気ままに走りまわっていた。直登さんはこの野性的で首の長い鳥の背中に腕を心地よさそうに回しながら、家族の避難行を振り返り、一行の身が汚染されており、家のなかに放射能を持ちこまれるのを恐れた義理の妹に宿泊を断られたいきさつを物語った。直登さんは福島第一原発メルトダウンから2年後、セシウム汚染レベルが高いにもかかわらず、自分の農場に戻った。直登さんは放射線管理地帯内の動物の殺処分に反対だという。彼は食肉に使うための屠殺には理由があると信じているが、汚染を理由に屠殺することに道理がないという。「むやみに人をバタバタ殺せるか?」と問いかける。
だけど、読者のみなさんは直登さんが自分の家畜にこだわる単細胞の農民だとお考えかもしれないが、[避難]区域からのもう一人の農民、長谷川健一さんのことばに、「みな、牛というと同じに考えちゃうのね。ところが、まったく違うのよ。まったく…」という。健一さんの8人家族はかつて、天職である酪農を支えていた土地に建つ風格のある家に住んでいた。彼はいま、他の福島県の避難民と一緒に、2倍幅のトレーラーを連ねた車列にそっくりな仮設住宅に住んでいる。健一さんは、科学者たちが来て、彼の村、飯舘は放射能で危ないと村長に告げたが、政府が安全であると住民を安心させるばかりだったと振りかえる。長谷川さん夫妻は重大な放射線被曝について科学者の言い分が正しく、村役場が間違っていたとわかると、被曝し汚染された牛に対して毎日、搾乳しては毒を帯びた牛乳を捨て、できるかぎりの世話をした。悲しいことに、夫妻はやがて愛しい家畜をもれなく殺処分することを強いられた。
ひらた放射能検査センター事務長の二瓶正彦さんは、セシウムを体内に取り込むと、害になるので、被曝線量にはたいして意味がないと説明する。福島第一原発のオーナー企業、東京電力株式会社が漏出させた放射性物質が福島県の土壌を汚染し、土地を使えなくしてしまった。それにもかかわらず、東京電力はその放射性フォールアウトを「無主物」、所有主のない動産であるとして、責任を認めることを拒否していると、核物理学者である小出裕章さんはいう。
放射線管理地帯では、わが身を汚染に被曝させることなしに、飲み食いできないので、わたしたちのたいがいにとって、松村直登さんが農場に帰還したことは想像を絶しているが、無期限に自宅から追い出された長谷川健一さんや他のだれにとっても、そのリスクを身に引き受けることがそれほど理解不能なことではないとわたしはあえていいたい。健一さんはフクシマ核惨事以前の日々を回想して、お孫さんたちが毎日、保育園に行くとき、おじいさんと牛たちに挨拶しにきたと振りかえる。その暮らしは二度と戻らない。残されたものは楽しかった日々の思い出だけであり、健一さんは「もう忘れたいよ」という。
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【付録】

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