2015年9月22日火曜日

論文紹介「新研究によれば、フクシマ惨事は予防可能だった」

 USC News 南カルフォルニア大学ニュース


新研究によれば、フクシマ惨事は予防可能だった
決定的に重要な予備用発電機は――科学者らの警告に反して――津波被害のリスクにさらされる低高度区域に設置されていた。 
ロバート・パーキンス Robert Perkins
2015921

2013年、福島第一核発電所の地下水貯蔵プールの周辺で働く作業員たち。 (Photo/IAEA Imagebank)

新たな研究によれば、1986年のチェルノブイリ・メルトダウン惨事以降で最悪の核惨事は起こるはずがなかったという。

USCヴィタビ工学科大学院のコスタス・シノラキストとトルコの中東技術大学のウツク・カノーグルは、査読済み論文誌『王立協会フィロソフィカル・トランザクションA』掲載研究において、数千ページにおよぶ政府と産業界の報告書と数百点の報道記事を調査し、2011年フクシマ核惨事にいたる経緯の解明に資する情報を抽出した。その結果、「おごりと怠慢」、設計の不備、不適切な危険分析が浮き彫りになり、津波が襲来する前でさえ、海沿いの核発電所が破滅を運命づけられていたことが判明した。

USCヴィタビ工学科大学院・土木環境工学科のシノラキスト教授はこう語った――「たいがいの研究は事故対応に焦点を当てていますが、わたしたちは、惨事の原因になった設計上の問題があり、地震勃発よりずっと前に対処されているべきだったことを解明しました。政府や産業界による先行研究は機械の故障に注目するものであり、『手がかりを葬る』結果になりました。津波災害に関する事前研究が適切に実施されていれば、将来の災害を招く急所として、ディーゼル発電機が特定されていたでしょう。福島第一原発は冠水を座して待つ無防備施設だったのです」。

規制の不備

論文著者らはこの災害を、決定的に重要な基盤装備――この場合は、主電源喪失事態にさいして施設の冷却機能を維持する予備用発電機――が危険な方法で設置されている状況を招いた「業界、規制当局、技術者らの失策の連鎖」と書き表している。

被災した4か所の核発電所(女川、福島第一、福島第二、東海第一)において、合計33基の予備用ディーゼル発電機のうち、22基が津波をかぶり、福島第一にいたっては、13基のうち、12基が冠水した。場外の発電機につながる合計33系統の送電線のうち、2系統を除く他のすべては津波に破壊された。

福島第一の反応炉は冷却機能を失い、次々とメルトダウンを起こした。

「福島第一の運命を決定づけたのは、非常用ディーゼル発電機の設置場所の高度だった」と、著者らは書いた。1基は地下に設置され、他のものは海抜10ないし13メートルの位置に設置されていた――これでは、説明もできないほど、破滅的に低すぎた――と、シノラキスは述べた。

無視された警告

シノラキストとカノーグルは、施設を運営する東京電力株式会社が、先ず施設を建造する海食崖台地の高さを削り取り、津波の高さを過小評価して見積もり、欠陥のある独自の内部データと不完全なモデルに依拠し、もっと大規模な津波がありうると警告する日本の科学者らの声をないがしろにしたと報告する。

東京電力は災害に先立って、福島第一の立地点における海水面の上昇予測値を6.1メートル――施設が立地している同じ沿海部でマグニチュード8.6に達する地震が記録されていたのにもかかわらず、マグニチュード7.5地震に関する精密度の低い調査にもとづいていたと思われる高さ――に設定していた。

これはまた、東京電力が2008年に外部の情報源によるデータセットにもとづいた2組の計算を実施したところ、それぞれが最大8.4メートルに達する――おそらく海抜10メートル以上の地点に到達しうる――津波の高さを示唆していたという事実にも反していた。

警鐘

2011年災害のさい、福島第一における津波の高さは推定13メートルに達していた――この高さは、予備用発電機のすべてを水没させ、送電線を押し流すのに十分である。

さらに言えば、2010年のチリ地震(マグニチュード8.8)は東京電力に対する警鐘になっていたはずだとシノタキスはいい、それが「事故を回避する最後の好機だった」と語った。東京電力は新たに福島第一の安全性評価を実施したが、社内の科学者らの一部が提示した勧告に逆らい、津波の高さの最大値として、5.7メートルを用いた。

東京電力は201010月に、「核施設の安全性を評価し、確認した」と結論し、その知見を日本の核工学会議で披露した。

シノラキスは、「問題は、東京電力の研究がすべて社内で実施されたことです。分析は安全要因を取り入れておらず、いずれにせよ、内容に欠けています。津波に特化した訓練のためにも、災害研究を実施する技術者らと科学者らの認証のためにも、必要な場合、原則に則って変更の実施を確認する彼らを審査する規制当局者らのためにも、世界的に標準が欠けています。職務資格を認定するさい、津波に特化した質問を用意している免許審査委員会は、どれほどあるのでしょう?」と述べた。

津波に特化した訓練、認証、免許審査が欠如しているので、沿海地域に立地する他の核発電所における災害研究の場合にも、同じような間違いを犯す可能性があると、シノラキシスはいう。彼は、経験と内容が不足しているため、津波による浸水予測がフクシマと同程度の災害過小評価に終わっている世界中の最新研究を数えあげた。

シノラキスとカノーグルの論文は921日に公開された。この研究は、ASTARTE(ヨーロッパ津波評価・戦略・リスク軽減機構、認証No. 603839)と全米科学財団(医療改革賞No. 1313839)による支援を受けている。

More stories about: 


フクシマ事故は予防可能だった

コスタス・シノラキス(Costas Synolakis)、ウツク・カノーグル(Utku Kânoğlu
公開日:2015915日。DOI: 10.1098/rsta.2014.0379

概要

2011311日の津波は、過去100年間で4番目の規模の巨大なものであり、15,000人以上の死者を出した。日本のこの地域に被害をもたらす、津波を誘発する地震の設計マグニチュードは著しく過小評価されており、津波が福島第一核発電所に襲来して、史上3度目の過酷核事故を引き起こした。興味深いことに、女川核発電所も福島第一とほぼ同じ高さの津波に襲われたが、「意外なほど無傷のまま」災害に耐えた。

われわれは、工学と規制における瑕疵の連鎖といわれてきたものがフクシマ惨事を誘発したと説明する。

第一に、先立つ時期にこの地域に殺到した大津波の証拠に対し、大地震はプレート沈み込み地帯のどこでも起こりうると示唆する日本の研究に対し、2004年スマトラ島地震以来の巨大な衝上断層に関する新たな研究に対して、十分な注意が払われていなかった。

第二に、たがいに近接した距離にありながら、核発電施設の設計条件が不可解なほどに違っていた。

第三に、福島第一における津波の高さの予測最大値を計算する災害分析が方法論的な間違いを犯していたと思われ、それは津波工学の経験者であれば、だれも犯さないような失策だった。

第四に、日本の核規制機構に実質的な力量不足が認められた。

フクシマ事故は、国際的に最善の実務手順と標準が遵守され、国際的な査察が実施され、既存の地質学および水力学の知見の解釈に良識が働いていたならば、予防可能だった。津波に対する核発電施設の脆弱性を評価するため、緊急事態に対する準備や重要施設の防護のための津波コンピュータ計算を実施する技術者や科学者らの特化訓練を実施するため、また安全性調査を査察する規制当局者のために、公的な標準が必要とされている。

書誌情報:
Published By The Royal Society
Print ISSN 1364-503X
Online ISSN 1471-2962
Copyright & Usage © 2015 The Author(s) Published by the Royal Society. All rights reserved.

0 件のコメント:

コメントを投稿