2015年11月11日水曜日

ベアトリス・フィン【評論】静かな覇権闘争~多数派の力に目覚めた非核諸国の国連総会蜂起


HuffPost特約寄稿者たちによる
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ベアトリスフィン 
Beatrice Fihn Become a fan 
核廃絶国際キャンペーン事務局長 
Executive Director, International Campaign to Abolish Nuclear 


静かな覇権闘争
2015119

国連総会は例年、数えきれないほどの核兵器関連決議を採択している。だが、今年はどこか様子が違っていた。ニューヨークの国連本部で、核兵器をめぐって、重要な戦いが繰り広げられたのである。

先週の国連総会は、核兵器の今後をめぐる戦いが、互いに競合する決議、声明をめぐる駆け引き、支持の取り込み、舞台裏の張り詰めた会合、大会議場の隅での素早い打ち合わせの形を取って、たけなわだった。

一方のコーナーでは、核保有諸国とその同盟諸国が不透明な「安全保障上の懸念」の背後に隠れながらも、現状維持がいよいよ難しくなったと気づいていた。他方のコーナーでは、これまでの数十年間、この問題に関して重要な当事国ではないと脇役に追いやられてきた非核諸国が、みずからの力を感じはじめていた。

この動きは、蜂起、静かな革命、あるいは核アパルトヘイトに対する戦いと呼ばれてきた。非核諸国は、核兵器の人道におよぼす影響に改めて注目し、大量破壊兵器で世界を脅かすことの倫理的な意味を強調することによって、議論の主導権を握り、核軍縮で真に前進するための独自の道筋を切り拓こうとしている。

革新政権諸国グループがこの1か月、国連総会の審議に問いを突きつけた――核兵器は禁止されるべき容認できない兵器ではないのか? それとも、受忍できる兵器であり、保持する価値があるのか? 数十年間にわたり、空虚なことばをもてあそび、他国の背後に隠れ、核兵器のない世界の理想に曖昧な関与を示してきた果てに、各国はこの問いを答えるように強いられた。

一部の政権、とりわけ核兵器同盟諸国の政権にとって、この論調の変化は、手痛い流れになった。そうした政権はこの数十年間、米国が大きく拡げた核抑止力の傘に頼りながら、同時に核軍縮推進国の自画像を植えつけようとしてきた。核兵器を安全保障政策に組み込んでいる諸国は、人道にもたらす無差別的で破局的な対する影響にもかかわらず、核兵器が戦争の手段として許容できる兵器であり、安全保障に有益であると考えていることを認めなければならなくなった。これらの諸国の核軍縮への関与と核兵器拡散に対する「重大な懸念」は、突如としていささか虚しく響くようになった。

これら諸国の小グループは、非核諸国の核軍縮推進要求を撤回させようとして圧力をかけるため、敵対的な発言、二国間の強烈な締め付け、政府トップレベルの電話攻勢、手続きおよび予算にかかわる妨害といった数多くの手段を繰り出した。

だが、脅迫戦術は役に立たなかった。評決の準備が整うと、大多数は変革を要求した。

国連総会における先週の評決は、世界の多くの国々が核兵器を廃絶するための実効性のある行動を要求していることを浮き彫りにしたが、核武装諸国とその同盟諸国が、そのような長年の懸案であってきた変革に抵抗する決意のほどをも明確にした。

国連加盟諸国の明白な多数派が、核兵器の人道に対する影響と核兵器保有の倫理および道徳にもとる性格に関する一連の決議案に賛成票を投じた。諸国政府はいま、核兵器の非人道的な影響に対する懸念に突き動かされて、核兵器を禁止し、廃絶するための新たな法律案を練り始めるための作業部会を設置した。

核武装諸国とその同盟諸国は、核軍縮のいかなる前進にも支持を拒んだだけでなく、そうした動きから離脱して、これまでの20年間、優勢なままに行き詰まっている現状維持を図り、確保しようとしている。

核兵器を持てる諸国と持たざる諸国のあいだの亀裂が拡大すれば、国連で仕事をしている外交官たちは居心地が悪くなるだろう。だが、核軍縮は外交だけで解決する問題ではなく、政治的な問題なのだ。そして、政治の変革が実現するためには、諸国民は自国を代表する政治家たちが、本心で核兵器をどのように考えているのか、気づく必要がある。

諸国政府は今週、国連でどちらかの陣営を選ばなければならない。多数派の国々は一歩を進め、核兵器を禁止・廃絶する新たな法律案について交渉したいと願っている。安全保障における核兵器の利点を信じている少数派の国々は、核兵器保有の継続を支持し、国際軍縮への道を塞ぐ障害になっている姿をさらしている。

マーティン・ルーサー・キングはかつて、「自由は決して圧制者の方から自発的に与えられることはない。しいたげられている者が要求しなくてはならないのだ」といった。世界有数の強国の一部が抵抗しているにもかかわらず、この非核兵器諸国が主導する「蜂起」は終息する兆候をなんら示していない。それどころか、人道に対する影響に関する決議案の採択と核兵器を禁止する新しい条約は、非核兵器諸国が核兵器時代に終止符を打つ準備をついに整えたことを伝える信号なのだ。

Follow Beatrice Fihn on Twitter: www.twitter.com/BeaFihn

【クレジット】

HuffPost Politics / Blog, “A Silent Battle of Power,” by Beatrice Fihn;

【関連ニュース】

毎日新聞 2015113


【ニューヨーク草野和彦】国連総会(加盟193カ国)の第1委員会(軍縮)は2日、核兵器の非人道性を強調し、核廃絶への法的枠組みの強化を求める「人道の誓約」決議案の採決を行い、賛成128で採択した。主な核保有国のほか、非核保有国の中でもドイツやオランダなど北大西洋条約機構(NATO)加盟国の大半が反対。唯一の被爆国で米国の「核の傘」に守られている日本は棄権した。

…佐野利男軍縮大使は委員会終了後、「核保有国と非核保有国が協働し、核軍縮や廃絶を進めるという日本の立場と整合が取れなかった。決議案に反対しているわけではない」と棄権の理由を報道陣に説明した。


【関連記事】

2015117
2015年パグウォッシュ会議長崎大会~彼らに核廃絶は可能なのか?

「平和を祈るものは、一本の針をも、隠し持っていてはならぬ。
武器を持っていては、もう平和を祈る資格はない」
――永井隆「平和の塔」

君の人間性を忘れてはならないが、いまは核のない世界を忘れようじゃないか。これは公式な路線でないかもしれないが、2015111日、長崎に集ったパグウォッシュ会議世界大会のお持ち帰りメッセージだった。新たな地域紛争と難民危機のさなかにあって、「相互信頼と自信」が地に堕ちた昨今、外交辞令と忍耐が重視された。経済・軍事力の不均衡の結果、遅々とした漸進的な軍縮のみを伴う核による抑止だけが、進むべき安全な道というわけだ。




2015115

米国は195431日、マーシャル諸島ビキニ環礁において、最初の標的到達型水素爆弾を試験した。この核兵器は、設計者らが計画または予測した威力の3倍に達する爆発力を生みだした1 。核兵器から生じた放射性降下物の雲が100キロの彼方にいた漁夫を殺害することになり、数百マイル圏内の数百人、おそらくは数千人の人びとを病気にかからせ、環礁全域を高レベルの放射能で汚染して、住民に移住を余儀なくさせたばかりか、そのほとんどが二度と故郷に戻れない結果を招いた。この兵器はマーシャル諸島で試験されたのだが、その爆発は地球規模のできごとになったことが徐々に明らかになっていった。


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